2012年2月29日 (水)

響かぬ不戦の誓い

さて、ふと目に留まったのがヘルムート・コール元独首相の独大衆紙ビルトへの寄稿です。

この人、首相に16年も在職し、その間東西ドイツ統一を成し遂げた人ですが、いまいちパッとしない。雄大な体躯の持ち主なんですがねえ、どうも肝の小ささや田舎臭さの抜けない人でしたなあ。わたしの印象では。ドイツの宰相らしい気の利いたことを言うわけでなし、外交では完全にミッテラン仏大統領のジュニアパートナー。前任者と違って切れ味抜群の経済政策通でもありませんでした。むしろ経済オンチだった。

今や病み衰えておるコール氏ですが、欧州債務危機が深刻さの気配を見せ始めていたギリシャ救済直前の2010年5月、独紙への寄稿で心に残る言葉を刻みました。すなわち、「ギリシャ救済を今拒む者は、世界と次世代に無能ぶりをさらけ出す。なぜなら、『我が家欧州』を土台から危険にさらすからだ」と。

実際、コールの「メートヒェン(ガール)」だったはずのメルケルさんは我が家欧州の土台をかなり揺さぶりました。今も揺さぶっているのか。いや支えているのか。揺さぶりつつ支えているのか、よくわからないところです。しかし事態はコール氏の懸念したとおりに進んでいるわけでして。

そのコール氏のビルト紙への寄稿ですが、「わたしの欧州のビジョンは欧州創設の父たちのビジョンだったし、そうあり続けている。すなわち、欧州統合のビジョンであり、われわれ大陸のますます密接な一体化だ」と、チャーチル、モネ、シューマン、アデナウアーらの名前まで持ち出す形で、大きく始まります。要は、「欧州はなおも戦争と平和の問題であり、平和の考えが欧州統合の運動法則である」と。

その上でコール氏は、「欧州の現在の議論やギリシャの危機的状況が、われわれが欧州統合の目的を見失い、あるいはその目的に疑問を呈し後退させる方向に行きついてはならない」と訴えます。

 しかし、この不戦の誓いの結果としての欧州統合、今の欧州市民にどう実感を持って受け止められているんでしょうか。戦後は遠くになりにけり。

 なるほど、これまでは不戦の誓いをテコに欧州の政治エリートは「上から」の統合を進めたんでしょう。しかし、北欧でのギリシャ支援に対する反発、そして南欧での緊縮策への抗議デモを見るにつけても、欧州統合は「下から」も進めていかないと、ホントにマズイ様な。統合の「利」を徹底的に説くしかないでしょうなあ。

2012年2月27日 (月)

ゼロ金利を拒む

 しかしECBは、政策金利を1.0%からさらに引き下げるんでしょうかね?

 新任のクーレ理事は19日の講演で、ゼロ金利にしてしまえば、①マネーマーケットの活動が阻害されてしまう②商銀の収益を減じさせ、金融危機時にはこうした収益減が与信の削減を招きかねない―などと、その弊害を説いております。このあたりは、日銀が先に行っていたゼロ金利政策の知見に拠るところが大きいようです。

 このロジックはリーマンショック後の利下げ局面でもECB当局者が口にしていたことで、FRBが実質ゼロ金利政策を導入する中、結局ECBの政策金利は1.0%にとどまりました。

 まあECB得意の長期オペ、今や3年物となってしまいましたが、これがかなり効いており、翌日物金利のEONIAは0.3%台。もはやこれはデポジット・ファシリティーの金利0.25%とほぼ同水準で、これ以上は下がらないでしょう。

いくら流動性を供給しても、ECBのデポジット・ファシリティーに戻ってくるだけではないかという見方も強いんですが、クーレ理事は「ユーロシステム(ECBとユーロ圏各国中銀)からの銀行借り入れは必ずしもわれわれのデポジット・ファシリティーの『滞留』資金と同じわけではない」と言っており、その効果の「実感」を強調しております。

金融緩和効果が見込めるのは追加利下げよりも、2月末に打つ次の3年物オペですなあ。

2012年2月 7日 (火)

そろそろ成長戦略を描こう!

ユンケル・ユーログループ議長は独誌シュピーゲル今週号に掲載されたインタビューで、ユーロ圏の成長戦略のなさを問われ、「欧州構造基金の資金を危機対策において一層強力に投入できる方策を議論する必要がある」と応じております。

債務圧縮には緊縮財政もさることながら、実は経済成長が最も有力な手段であります。しかしギリシャをはじめとする重債務国には財政出動の余地はゼロ。いくら緊縮策と賃下げと構造改革で経済競争力を底上げする素地を作っても、カンフル剤がなくては。

構造基金の弾力運用をにおわす一方で、ユンケル議長は相変わらず、ギリシャ公的部門の民営化推進を求めておりますがね。同議長がかつて引き合いに出していた旧東独の国有企業・資産の払下げはそんなバラ色ではなかったような。

やはり外部からの「マーシャル・プラン」は必要だなあ。通貨の切り下げはできないし。

2012年1月23日 (月)

イタリアの覚醒

イタリアの政権交代は、あの何とも言えぬ、色ボケとも欲ボケともつかぬ整形ジイサンが退陣した、という単純なハナシではないようです。独誌シュピーゲル最新号によると、「ベルルスコーニの様な道化が政権を担っていた時、イタリアはユーロ救済議論にほとんど口出ししてこなかった」が、今や欧州委員も経験した経済学者のモンティさん。危機支援をめぐり、「反メルケル陣営がこれまでになく強まった」(同誌)そうな。大国なのに欧州政治では影の薄いイタリアのここに来ての覚醒か。ボロボロになってから目覚めるのも、あの国らしい。

さてシュピーゲル誌によりますと、モンティさんはユーロ圏債務危機国を支援する恒久制度「欧州安定機構(ESM)」の融資能力を5000億ユーロから1兆ユーロに増額するよう訴え、これに強く反対する「金主」ドイツの包囲網を着々と構築しているそうな。

さらにモンティ氏と密にコンタクトを取り合っている同国人のドラギECB総裁がESMの融資能力を7500億ユーロに増額させる妥協案を出しているということです。うーん、中銀総裁としては首を突っ込みすぎの感も否めませんがね、居ても立ってもいられないのでしょう。

ドラギ総裁、この間の記者会見で「各国政府が『火力』を増すことができるのであれば何でも、ECBは歓迎する」とおっしゃっています。

いやー、これはようやくモノゴトが正しい方向に動き出しつつあるきっかけと捉えるべきでしょうなあ。信用の回復には、IMFではなく自分のカネを出すしかありません。「イタリアの覚醒」は同国だけではなく、欧州にも吉兆をもたらすかも。

それにしても、よくイタリアはベルルスコーニでECB総裁のポストを取れたなあ。報道されていた通り、ホントにあのおっさんはECB総裁職をめぐる「イス取りゲーム」では、ほとんど何にもしていなかったんでしょうなあ。アクセルが勝手にコケて、さらにドラギ氏のタマが良かったという幸運が重なりました。いずれにせよ「腕力」がポスト争奪に必ずしも利するわけではないということでしょう。

2012年1月17日 (火)

威風堂々

前回(http://euroman.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-7a1a.html)ついついくさしてしまった英国の、いかにも英国らしいスタンスですが、「人民元のオフショアセンター」をマジで目指していたんですねえ!オズボーン英財務相が現在、香港、北京、日本とアジア歴訪中ですが、香港と北京訪問はどうやらシティーの「人民元オフショアセンター化」に向けた地ならしのようです。

オズボーンさん、16日に香港で行った講演で「私の今回の訪問では、ロンドンを人民元市場の新たなハブとして、香港や他の金融センターの補完として確立することについて、中国や英国の銀行関係者とともに、中国当局との対話を進める」と明言しております。

同財務相によると、世界の外為取引における人民元シェアは昨年6月時点で0.9%。中国の世界貿易でのシェア(11%)に比べると明らかに少ないです。まあアジアはこれまでドル圏でしたからね。「今後数年、人民元市場の著しい拡大という見通しがあるのは明らか」(オズボーン財務相)でしょうなあ。

英財務省によると、同国は既に人民元の外為取引の30%を扱い、国内の人民元預金は何百億元にも上るそうな。

大陸が債務危機の泥沼の中に沈んでいる時に、海峡の向こう側は次の巨大通貨「元」の自由化をにらんでおります。大陸の巨大通貨に関わっている手間とヒマは惜しいか…。

2012年1月11日 (水)

閑話休題

エコノミスト今週号「シティーを救え」はオモロイですなあ。

内外からギリギリと締め付けられるような金融規制強化、さらに移民の規制強化、そして金持ち不遇策・・。エコノミスト誌がシティーの今後の地盤沈下を憂える材料は山ほどあるわけであり。まあ、カネは自由を好みますからね。

まあ、大英帝国の沈没以降、ブレトンウッズ体制崩壊後では米ドル最大のオフショア市場、欧州通貨統合後はユーロ(おそらく)最大のオフショア市場として、いわば他人のふんどしで相撲を取ってきたわけであり。

もういい加減、「シティーは人民元のオフショアセンターになるよう努力するのは道理にかなう」(エコノミスト誌)などと柳の下の数匹目かのドジョウを狙わず、ドーバー海峡の向こう側に広がる巨大通貨圏の「オン」ショアセンターになったらどうですかい?

大陸は今、スクラムの組み直し中。

2012年1月 6日 (金)

撤回してくれ!(無理だけど)

 キプロス中銀のオルファニデス総裁が6日付のFTへの寄稿で、「ギリシャ第2次支援への民間部門関与なぞはやめてしまえ!」と叫んでいますな。まあ、ギリシャ国債をキプロスの金融機関はしこたま保有しているので、力も入るでしょう。

 オルファニデス氏には全く同意なんですがねえ。この民間関与、ドイツが半ば強引に主張してきた「成果」なんですが、いかんせん欧州首脳の意思決定の積み重ねの上にあるんで、今更撤回は無理でしょう。たとえ撤回したとしても、「国債の信用なき世界」から速やかに脱却し、国債の信用があった昔のようになるとは今更考えづらいです。

 ワタシがもっと筋が悪いと感じ、そして欧州とユーロを愛する者としてぜひとも撤回を望んでいるのがユーロ圏債務危機国を救済する枠組みへのIMF関与ですな。

 この件について、シュタルク先生がECB理事退任前に独紙ウェルトとのインタビューで、「欧州が世界のその他に依存しているようなのは、非常に残念だ」と嘆き、「欧州はIMFの介入により、国際的な組織とそこを代表する関係者に自らをさらしてしまうことになる。欧州は自力で問題を解決しなければならず、徹底した財政政策を通じて国際資本市場への従属を減らさなければならない」と訴えております。

シュタルク先生、言われているようなECBの国債買い取りだけではなく、こんなことにも耐えかねてプッツンしたんでしょうなあ。しかしこれまた、欧州首脳らがさんざん会議を重ねた挙句によろよろ出してきた結論なんで、今更撤回できないでしょう。

2011年12月18日 (日)

そんなにドイツが悪いのか

 アラン・ブラインダー元FRB副議長は先ごろのウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、ユーロ圏内のマクロ経済的な不均衡を問題視し、ユーロ圏はギリシャ問題よりも、「見えにくいものの、はるかに大きいドイツ問題を抱えている」との主張を展開しております。

 確かにギリシャ債務問題は一義的には同国の放漫財政のせいではありましょうが、中核国ドイツにシンクロしてしまうユーロ圏の金融政策が、ギリシャのたがの緩みを加速した側面も見逃せません。

 さて、ユーロ圏がいわゆる「最適通貨圏」であることを疑わせるようなマクロ経済の不均衡を解決する策として、ブラインダー氏は、①ドイツが自発的に、例えば大規模な財政出動を実施、もしくは賃金抑制をやめるなど、他国よりも高インフレ政策を取る②他国がドイツのような生産性における奇跡を達成する。ドイツはその間、じっとしている③ドイツ以外の他国がデフレを余儀なくされ、賃金と物価で長期にわたる下落に見舞われる。これは著しい困難と痛みを伴うものとなる-との3つを挙げた上で、3番目が「悲しいことに最も公算が大きいだろう」としております。まあ実際、ギリシャやイタリアなどは「第3の道」を歩んでいるわけであります。

 しかし、そんなにドイツは悪者なんでしょうかね。確かに、ブラインダー氏の言うとおり、労働コストの抑制が奏功し、域内で頭抜けた経済競争力を背景に、「欧州内貿易で大幅な貿易黒字を計上する一方、他国の大半は貿易赤字」となっており、中国と違い為替操作をしていないにせよ、「ギリシャ、スペイン、イタリアなどと為替レートを固定することで、(事実上)通貨切り下げを享受している」という面はあるんですがね。

 もっとも、EU域内貿易でドイツと同じく巨額の貿易黒字を稼ぐ一方、域外貿易では赤字なオランダと違い、ドイツは域外貿易でも強さを見せ付けます。

 その代表例がドイツの花形産業、自動車でしょう。ECB12月月報によると、2011年の独自動車輸出は過去最高を記録しておりますが、フランスの自動車輸出はピーク時の45%、イタリアは同40%にとどまっております。

 何よりも、成長著しい中国の自動車市場において、ドイツ勢は大勝ちしており、中国輸入車シェアの6割を占める一方、フランス勢とイタリア勢は合わせてたった4%にとどまっております。要は仏車の輸出先は81.2%、イタ車では72.4%がEU向けと、両国の自動車産業は欧州以外ではほぼ競争力がないありさまです。

 スペインから東欧にまで及ぶ独自動車産業の裾野の広さを踏まえれば、「強いドイツ」がなければユーロ圏の状況はもっと厳しかったでしょう。まあ、ブラインダー氏が暗に示唆するように、ユーロの最大の受益者はドイツなので、「まずは財政再建を」とケチなことを言わず、もっと大胆なギリシャおよび南欧諸国救済に踏み切るべきでした。そう、2010年5月に。まさに「木っ端拾いの大木流し」-。

2011年12月15日 (木)

自己資本増強と貸し渋りのアンニュイな関係とは

 そりゃまあ、各銀行の資本増強必要額を示しておきながら、半ば強制的な公的資本注入の枠組みを示さなければ、銀行危機は続き、貸し渋りも起きるでしょうよ。独誌シュピーゲルに掲載されたエンリア欧州銀行監督機構(EBA)議長のインタビューで、同議長の弁明でも聞いてみましょう。

あまりに矛盾に満ちたエンリア議長のコメントが非常に面白いので、インタビューのやり取りをそのまま抜粋します。

シュピーゲル誌「来年6月半ばまでに、市場は事実上閉鎖されているのに、銀行は巨額の新規資本を積み増さなければならない。なぜそんな非常に窮屈なスケジュールを示したのか」

エンリア議長「欧州の金融市場には大きなリスクがあり、毎日のごとく揺すぶられる可能性がある。銀行がこの深刻な状況に備えるのを、われわれは長々と待つことはできない」

シ「場合によっては、多くの銀行が再び公的救済を要請しなければならない」

エ「他の道がある。銀行は新株を発行できる」

シ「そんな株は誰も買わないだろう」

エ「さらに銀行は利益を留保できる」

シ「2011年のような厳しい年では、銀行の利益もそれほど大きくはないだろう」

エ「今年上半期はそれほど悪くはなかった。さらに別のやり方もある。いわゆる条件付きの資本を募るか、事業の売却だ」

シ「コメルツバンクのような銀行は特に事業が落ち込みを示している。銀行融資が厳しくなることで、景気の息の根を止めてしまわないか」

エ「われわれは、銀行融資が減少することを許さない」

シ「そんなことを銀行に禁じることはほとんどできない」

エ「われわれはビッグ・ブラザーではない。ただ銀行は各国の監督当局に資本不足をどのように埋めるかについて、計画を提示しなければならない。それをわれわれは把握している。その計画は固まった数字で、事業分野や子会社の売却も盛り込まれる。ただ銀行が、例えば中小企業の融資を減らすような場合、(自己資本には)算出されないだろう」

そうは言っても、自己資本増強の必要に景気急減速も加わって、欧州の銀行が融資を絞るのは確実でしょう。ECBが10月に公表した銀行貸出調査でも、ユーロ圏で第3四半期、貸出基準を厳格化した銀行の割合と緩和した銀行の割合の差は16%と、前期の2%から大幅悪化しました。いやー、1月発表される次回の銀行貸出調査が楽しみです。

もっともエンリアEBA議長もこの点を大いに警戒しているわけであります。「銀行は一般に受け止められている以上に、その姿勢と事業モデルを大幅に変えた。われわれは今、銀行がリスクに慎重となり過ぎるという問題を抱えている。こうした姿勢は結局のところ、著しい貸し渋りを招くだろう」との言葉で、インタビューを結んでいます。まあ、その大きな部分は自ら押し付けた、いや市場圧力で押し付けざるを得なかった自己資本積み増し要求のせいだとは重々承知していることでしょう。

また少し本業

少し前の記事なんですが、

また本業のご紹介です。

「少し前」といっても、2カ月も

たっていません。

市場のスピードはあまりに速く、

欧州の政治決定のスピードはあまりに遅い。

http://www.chosakai.gr.jp/news/pdf/2311.pdf

«「単一市場」って

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