響かぬ不戦の誓い
さて、ふと目に留まったのがヘルムート・コール元独首相の独大衆紙ビルトへの寄稿です。
この人、首相に16年も在職し、その間東西ドイツ統一を成し遂げた人ですが、いまいちパッとしない。雄大な体躯の持ち主なんですがねえ、どうも肝の小ささや田舎臭さの抜けない人でしたなあ。わたしの印象では。ドイツの宰相らしい気の利いたことを言うわけでなし、外交では完全にミッテラン仏大統領のジュニアパートナー。前任者と違って切れ味抜群の経済政策通でもありませんでした。むしろ経済オンチだった。
今や病み衰えておるコール氏ですが、欧州債務危機が深刻さの気配を見せ始めていたギリシャ救済直前の2010年5月、独紙への寄稿で心に残る言葉を刻みました。すなわち、「ギリシャ救済を今拒む者は、世界と次世代に無能ぶりをさらけ出す。なぜなら、『我が家欧州』を土台から危険にさらすからだ」と。
実際、コールの「メートヒェン(ガール)」だったはずのメルケルさんは我が家欧州の土台をかなり揺さぶりました。今も揺さぶっているのか。いや支えているのか。揺さぶりつつ支えているのか、よくわからないところです。しかし事態はコール氏の懸念したとおりに進んでいるわけでして。
そのコール氏のビルト紙への寄稿ですが、「わたしの欧州のビジョンは欧州創設の父たちのビジョンだったし、そうあり続けている。すなわち、欧州統合のビジョンであり、われわれ大陸のますます密接な一体化だ」と、チャーチル、モネ、シューマン、アデナウアーらの名前まで持ち出す形で、大きく始まります。要は、「欧州はなおも戦争と平和の問題であり、平和の考えが欧州統合の運動法則である」と。
その上でコール氏は、「欧州の現在の議論やギリシャの危機的状況が、われわれが欧州統合の目的を見失い、あるいはその目的に疑問を呈し後退させる方向に行きついてはならない」と訴えます。
しかし、この不戦の誓いの結果としての欧州統合、今の欧州市民にどう実感を持って受け止められているんでしょうか。戦後は遠くになりにけり。
なるほど、これまでは不戦の誓いをテコに欧州の政治エリートは「上から」の統合を進めたんでしょう。しかし、北欧でのギリシャ支援に対する反発、そして南欧での緊縮策への抗議デモを見るにつけても、欧州統合は「下から」も進めていかないと、ホントにマズイ様な。統合の「利」を徹底的に説くしかないでしょうなあ。

